2025.12.28 コーヒーの読み物
エル・ローレル農園 ~ パライネマ種で世界に衝撃を与えた生産者
エル・ローレル農園とパライネマの魅力を探る
ホンジュラス・エル・パライソ県ダンリ市ラス・デリシアスにあるエル・ローレル農園は、パライネマ種で有名なコーヒー農園。2017年にCup of Excellence(COE)で優勝し、2025年のCOEパライネマ部門でも2位を獲得したこの農園は、家族経営の小規模農園ながら卓越した品質を生み出します。
今年(2025)は、私(カフェテナンゴ店主・かやぬま)がBest of Parainema 2025に国際審査員として参加した際に直接買い付けた「Best of Parainema 2025 8位」のロットを販売します。国際大会の審査員として現地の生産者と対話し、その品質に惚れ込んで買い付けた『販売する意味』のある特別なコーヒーであることを最初に記しておきます。
本記事では、エル・ローレル農園の歴史や環境、栽培するパライネマ種の特徴、そして輝かしい受賞歴に焦点を当て、中米スペシャルティコーヒーの専門家の視点からその魅力を解説します。
月桂樹に守られた農園
エル・ローレル農園は標高約1,430 mに位置し、プラムやアボカドといったシェードツリーと共にコーヒーが栽培されています。敷地内には洞窟や小川があり、アルマジロ、リスやアグーチといった野生動物が豊かな生態系を形成しています。
友人であるRaga Coffeeのロニー・ガメスから聞いたところによると、農園にはローレル(月桂樹)があり、それが農園名の由来になっているそうです。ベイリーフとして知られるこの木は、栄光や勝利の象徴として古代から親しまれており、エル・ローレル農園の名前にふさわしい存在感を放っています。
農園主のオスカル・ダニエル・ラミレス氏の家族は4代にわたってコーヒーを栽培し、2015年からはスペシャルティコーヒーに特化しています。土壌浸食を防ぐ生け垣やIHCAFEの技術指導に基づく施肥など、環境保全と品質向上を両立する丁寧な管理が行われており、その仕事ぶりの確かさが伺えます。
パライネマ種とは
私が惚れ込んだこのパライネマは、IHCAFEが開発したサルチモール系ハイブリッドで、ビジャサルチとティとハイブリッドティモールを掛け合わせたT5296から選抜された品種。
サビ病やネマトドス(線虫)への高い耐性と安定した収量を持ち、中標高(1,000〜1,400 m)で特に本領を発揮します。ゲイシャやパカマラのように高い標高が必要ない為、より多くの地域においてそのポテンシャルを発揮することができるのは大きな強みです。大粒で均一性が高い豆は焙煎しやすく、明るいシトラス系の酸味、ジャスミンやベリー、キャラメルを思わせる複雑なフレーバーを持つのが魅力。また、ナチュラル精製との相性も良く、品評会では出品ロットの半数がナチュラル、アナエロビコなどが占めるとも言われます。実際にカッピングする際も、その多層的な香味に毎回新しい発見がある楽しい品種です。
Cup of Excellence 2017 –初出場での快挙と最高落札額の更新
2017年、エル・ローレル農園は初めてCOEホンジュラス大会に出品したパライネマ種のマイクロロットでスコア91.81点(プレジデンシャルアワード)を獲得し、見事1位に輝きました。青リンゴ、ジャスミン、ベルガモット、レモンピール、桃、ブルーベリー、烏龍茶、白ワインといった多層的な香味を持ち、洗練された酸とビロードのような口当たりを備えていると国際審査員たちは絶賛しました。
結果としてこのロットは、当時のCOE落札価格の最高記録を更新し、パライネマ種の名を世界に知らしめる大事件となったのです。
このロットをブラインドカッピングした際、そこにいた審査員たちがその華やかさから「ゲイシャだ」と勘違いしたという逸話があります。私が後日このコーヒーをカッピングした際にも、ゲイシャを思わせる芳醇な香りと質感に驚かされ、カッピングシートに「ゲイシャのようだ」とメモしたほどでした。しかし、それが当時無名であったパライネマであると知り衝撃を受けたのをよく覚えています。
私がこのロットを初めてカッピングしたとき、爽やかな柑橘の香りと花のような甘美な余韻に加え、冷めていくにつれて現れる蜂蜜のような甘さの変化に驚かされました。その時の感動は忘れられません。オークションでは1ポンドあたり124.50ドルという高値で落札され、スペシャルティコーヒーの奥深さと可能性を世界に示しました。
Cup of Excellence 2025 – パライネマ部門で第2位
近年COEでは精製や品種別カテゴリーが導入されており、ホンジュラス大会ではパライネマ部門が設けられました。エル・ローレル農園のロット「Laurel #3」はこの部門で89.47点を獲得し、僅差で2位にランクインしました。1位はサンタ・バルバラ県の農園El Rubí(89.65点)でしたが、エル・ローレルの継続的な品質向上が証明されました。私がこのロットをテイスティングした際には、ジャスミンとオレンジピールのアロマに加え、熟した桃やパイナップルのようなトロピカルな甘さが感じられ、2017年のロットよりもさらに奥行きのある風味に仕上がっていることを実感しました。
Best of Parainema 2023・2025 – 国内コンペティションでの活躍
私は、2024年、2025年と2年連続でBest of Parainemaの国際審査員を務めています。
このコンペティションは、この品種の品質向上を目的としており、ホンジュラスの中でもエル・パライソ県で収穫されたパライネマのみ出品可能という極めて特殊な大会となっています。
エル・ローレル農園は、この大会に積極的に参加しており、2023年では2位、2025年大会では8位に入賞するなど、常に上位に名を連ねています。農園ごとの栽培・精製技術とテロワールの表現力が試されます。私は国際審査員として2025年大会に参加し、数々のロットをテイスティングしましたが、エル・ローレルのロットはレモングラスやライチのような爽やかな香りと滑らかな口当たりが特徴で、他農園とは一線を画す個性を持っていると感じました。
パライネマ アンバサダーとして
エル・ローレル農園のパライネマは、耐病性と収量に優れたハイブリッド品種でありながら、カップに複雑で華やかな香味をもたらす稀有な存在です。2017年のCOE優勝や2025年のパライネマ部門2位、Best of Parainemaでの上位入賞など、数々の受賞歴がその品質を裏付けています。
また、カフェテナンゴ店主である私はBest of Parainemaを主催するRaga coffeeのロニー・ガメス氏と20年来の友人であり、彼の「パライネマを世界中に広めたい」という思いに深く賛同しています。その理念に基づき、日本ではパライネマのアンバサダーとして活動し、この希少品種の魅力を一人でも多くのコーヒー愛好家に伝えるべく尽力しています。
自然環境への配慮と不断の努力に支えられたこのコーヒーは、現在のホンジュラススペシャルティシーンを牽引する存在と言えるでしょう。バリスタやロースターの皆さんには、ぜひエル・ローレル農園のパライネマを焙煎・抽出し、その多彩な表情を探ってみて欲しいと思います。



















