コーヒー豆通販のカフェテナンゴ

2026.03.17 生産者特集

道端の種子が山の頂で花開くまで

ホンジュラス『セロ・アスール農園』 ジャバニカ種

コーヒーの仕事をしていると忘れられない一口というものがある。

 

舌の上に広がった瞬間、「これだ」と体が先に反応する。理屈より先に感覚が動く。今回ご紹介するホンジュラス セロ・アスール農園のジャバニカは、まさにそういう一杯でした。産地出張中にカッピングラボで口にしたその瞬間、私は迷わず購入を決めていました。

 

このブログでは、そのジャバニカが生まれるまでの物語——農園を作り上げた家族の挑戦、偶然の出会いから生まれた品種の秘密——をできるだけ丁寧にお伝えしたいと思います。

 

ミエリッシュ家という存在

中米スペシャルティコーヒーの世界で、ミエリッシュ家(Fincas Mierisch)の名前は非常に有名です。ニカラグアのヒノテガやマタガルパを中心に複数の農園を経営し、5世代にわたってコーヒーを作り続けてきた名家です。

 

彼らが他の生産者と一線を画すのは、単に品質が高いというだけではありません。「品種の探求者」としての姿勢です。エキゾチックな品種を積極的に集め、自分たちの土地で試し、育て、磨き上げることに異様なほどの情熱を注いできました。そのひとつの結実が、後に詳しく紹介するジャバニカという品種です。

そのミエリッシュ家が、2011年に大きな決断をします。本拠地ニカラグアだけでなく、ホンジュラスに農園を持つという挑戦です。

 

ホンジュラスへの挑戦——セロ・アスール農園の再生

2011年、エルビンはホンジュラスCup of Excellenceのヘッドジャッジを務めました。審査の席に並んだカップの質の高さに、彼は驚きます。当時、ホンジュラスコーヒーの国際的な評価はまだ低かった。しかし実際に味わってみると印象はあっさりと覆されましたといいます。

 

『ホンジュラスには、可能性がある。今まで試したことのない標高1,600m以上で作ってみたい』

 

コーヒーは栽培標高が上がるほど、コーヒーチェリーはゆっくりと熟し、風味が複雑になる。ニカラグアで所有する農園の最高標高は、1500m弱でした。ホンジュラスでならニカラグアで作れなかった品質のコーヒーを作ることができるかもしれない。エルビンは、そのことが頭を離れなくなります。

 

そのタイミングで、エルサルバドルの友人から「セロ・アスールが売りに出ている」という連絡が届きます。迷わず購入——それがセロ・アスール農園の始まりでした。

 

荒れていた土地を丁寧に整備し、スペシャルティコーヒー農園として再生させる。敷地内にカッピングラボとパティオを設け、品質管理の拠点として機能させました。現在のコーヒーの木の多くは前のオーナーが植えたものですが、ミエリッシュ家に移ってから約28ヘクタールに新しい品種——ジャバニカ、イエローパカマラ、ゲイシャ、エチオサル、イエローパカス等様々な品種が植えられています。

 

農園データ

セロ・アスールは、ホンジュラス中部のシグアテペケ(コマヤグア県)に位置します。

| 生産国 | ホンジュラス |
| エリア | シグアテペケ、コマヤグア |
| 標高 | 1,600 – 1,700 m |
| 品種 | ジャバニカ(今回のロット) |
| 精製方法 | フリーウォッシュト |
| 生産者 | ミエリッシュ家(Fincas Mierisch)|
| 農園面積 | 96ヘクタール |
| ウエットミル | サンタ・ルシア農園と共有 |
| ドライミル | カデクサ(農場から約2時間) |

 

標高1,600〜1,700mは、ホンジュラスのコーヒー農園の中でもトップクラスの高さです。また、セロ・アスールはミエリッシュ家の他の農園と比べて降雨量が多い土地ですが、シルト質の粘土土壌が水分と栄養をうまく保持してくれる。その環境が、高いカップクオリティの土台になっています。

 

ジャバニカという品種——道端で拾われた種子

2001年頃のこと。ミエリッシュ家のメンバーが農園からの帰り道に、道路脇のフルーツ売りの露店で不思議な袋を見つけました。「JAVA」と書かれた袋。売り主は「幻のJava品種の種子だ」と言う。半信半疑のまま購入し、試験栽培を始めます。

 

するとこの豆は、驚くほど良いカップクオリティを見せ始めました。栽培開始から7年後、2008年のニカラグアCup of Excellenceで2位(91.43ポイント)を受賞。その評判は一気に広まります。

 

後に遺伝子解析(RD2)が行われ、この種子の正体が明らかになります。エチオピア起源の在来種が、19世紀にオランダ人によってジャワ島に持ち込まれた「Java」系統そのものでした。TypicaやBourbon系とは異なる、独自の遺伝的背景を持つ品種です。ミエリッシュ家は「Java」と「Nicaragua」をかけ合わせJavanica(ジャバニカ)と名付けました。

 

尚、「ジャバニカ」はミエリッシュ家がこのJava系統に付けた彼らのブランド名であり、現在ニカラグアとホンジュラスの自農園で最大規模の生産者として知られています。

 

ジャバニカの特徴

チェリーと生豆の形は細長い楕円形で、Typica系を思わせる樹形を持ちます。収量は少なめで、コーヒーさび病には比較的強いものの、それ以外の病害には弱い。生産者にとって手のかかる、ハイリスク・ハイリターン型の品種です。

 

スペシャルティコーヒーの世界では、こうした低収量・高品質の品種はマイクロロット用途で栽培されることが多い。ジャバニカもまさにそのひとつで、だからこそ栽培データを豊富に持つミエリッシュ家が育てるからこそ安定した品質が保たれると言えます。

 

ジャバホンの誕生 —— ニカラグアの品種がホンジュラスへ

ミエリッシュ家がエル・リモンシーヨ農園をはじめとするニカラグアの農園で育て上げたジャバニカを、今度はセロ・アスール農園に持ち込みました。

 

土地が違えば、気候も違う。ニカラグアとは異なるホンジュラスの山の空気と土壌の中で、ジャバニカがどんな表情を見せるのか。いや、そもそもホンジュラスで育ったジャバなのでジャバホンなのだ。ニカラグアのJavaとは別物になっているはず。

買付の産地出張で、私はその答えをカッピングラボで受け取りました。

 

買付を決めた瞬間

カップに鼻を近づけた瞬間から香りが違いました。

口に含むとクリーミーなマウスフィールに果実の甘さが広がり、最後にブラックティーのような静かな余韻が残る。

 

「これだ」と思いました。購入を決めるのに一秒もかかりませんでした。

 

思えばこのセロ・アスール農園のコーヒーとの最初の出会いも似たようなひと口の印象でした。

エルビンが世田谷のカフェテナンゴにサンプルを持ち込んできたのは、まだ農園を買ったばかりの頃のことです。「収穫しても売り先がないんだ。お前が買わないなら、俺が自分で飲むしかないな」と笑いながら言った。

 

私は、そのコーヒーをひと口飲んで、その場で全量の購入を決めました。そのロットは、セロ・アスール農園の最後の摘み取りをしたロットだったので、今でも「ファイナルハーベスト」という名前でスタッフの記憶に刻まれています。

 

いつもカフェテナンゴが販売している定番のレッドカツアイとはまた違う、ミエリッシュ家がホンジュラスで描く可能性の一端を、このカップに感じてもらえたら嬉しいです。

 

 精製について

今回のジャバニカはフリーウォッシュト(FW)で精製されています。

最適に熟したチェリーだけを選別し、大型の屋外発酵タンクで最小限の水とともに24〜48時間発酵させます。その後、丁寧に洗浄してミューシレージを取り除き、大きなパティオで2日間天日乾燥。パティオから温室内のアフリカンベッドに移してさらに14日間乾燥させ、水分値を11%まで落とします。

 

ニカラグアでは水分値12.5%が標準ですが、セロ・アスールは湿度が高いため、輸出規格以上に水分値が上がるリスクとカビの発生を防ぐために11%という基準を設けています。手間を惜しまない、ミエリッシュ家らしい仕事です。

 

 

最後に

道端で偶然拾われた一袋の種子が、ニカラグアで育ち、Cup of Excellenceで輝き、そしてホンジュラスの山の頂で新たな章を刻む。

コーヒーの仕事をしていて面白いのは、一杯のカップの向こうにこういう物語が詰まっていることです。

ぜひ、カップでその続きを体験してみてください。

 

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