2026.04.07 生産者特集
ホンジュラス「エル・サポテ農園 パライネマ種 ナチュラル精製」
美しい生豆には理由がある~Best of Parainema 2025 9位 エル・サポテ農園
カフェテナンゴが届けたいのは、ただ美味しいコーヒーではありません。
その一杯の向こうに、誰かの人生が見えてくるコーヒーです。
苦労の末に形になったもの、時間をかけて磨かれたもの、そして飲む人の心にまで届く物語を持ったもの。
私たちが大切にしているのは、そんな「ストーリーがあるコーヒー」です。
今回ご紹介するのは、ホンジュラス・エルパライソ県オロポリ、チャグイテ・グランデの山あいにあるエル・サポテ農園のパライネマ種 ナチュラル精製。このロットは、Best of Parainema 2025で88.63点を獲得し、9位入賞を果たしました。
この年の入賞ロットの中で、エル・サポテは、最も高い標高1515mに位置する農園。標高的には素晴らしい場所にあります。
そして今回ご紹介するのは、ナチュラルのロットですが、FWのロットも20位にランクインしていることから、地の利だけでなく確かな実力を持つ農園であることが分かります。
しかし、このコーヒーの価値は、順位や標高だけでは語れません。本当に心を打つのは、この農園がここへ来るまでに歩んできた道のりです。
エル・サポテ農園の物語は、2007年にマルタ・レティシア・メンドーサさんと夫モイセス・ラミレスさんが、2マンサナの土地にコーヒーを植えたところから始まりました。
当時の二人は農業に携わってはいたものの、コーヒー作りは未経験。いわばゼロからの挑戦だったといいます。
知識も十分な設備もない。それでも「なんとか前へ進みたい」という思いだけは誰よりも強かった。
けれど、人生はいつも理想通りには進みません。
農園を始めて約3年後、新しいチャンスを求めて、夫モイセスさんは国外へ出る決断をします。
家族にとってそれがどれほど大きな出来事だったかは、想像に難くありません。
一緒に育てていくはずだった農園を前にして、マルタさんは一人でコーヒーの世界を歩き始めることになります。
その頃のエル・サポテには、まだ十分な経験も、精製のための設備もありませんでした。
最初に収穫されたコーヒーの実は、チェリーのまま売るしかなかったといいます。
品質を作り込む以前に、まずは現実を回していかなければならない。
そんな厳しいスタートだったのです。
けれどマルタさんは、そこで立ち止まりませんでした。
農園に自前の精製設備を築き、少しずつ精製工程を学び、品質を上げていく。チェリーを丁寧に選別し、水に浮かべて異物を取り除き、温度を均一にし、そこから発酵へ進む。このナチュラル精製では、48〜50時間の密閉発酵を経てから乾燥工程に移り、さらに30〜35日という時間をかけて、均一に乾かしていく。
フリーウォッシュトでも細かい調整をしています。乾燥中は何度も撹拌しながら、最適な水分値まで丁寧に仕上げる。
そのひとつひとつには、何ら特別なことはありません。けれど、国際的に評価されるコーヒーは、こういう地道な仕事の積み重ねからしか生まれません。
しかもエル・サポテは、ただ品質だけを追い求める農園ではありません。
土壌や周辺の生態系を尊重しながら、持続可能な実践を続け、一本一本の木を大切に育ててきた。
自然を相手にするということは、近道がないということです。
だからこそ、この農園のコーヒーには、無理や背伸びではない本物の強さがあります。そして今、マルタさんはその努力によって、エル・サポテを国際的に輸出される高品質なコーヒーを生み出す農園へと育て上げました。
知識も設備もなく、チェリー売りから始まった農園が、世界基準で評価されるマイクロロットを生み出す場所になった。
その歩みのすべてが、この一杯の中に詰まっています。
カフェテナンゴ店主・かやぬまがこのコーヒーに出会ったのは、Best of Parainemaの国際審査員として参加した時でした。
審査会では、農園名は伏せられている為、先入観は通用しません。
名前でも、評判でもなく、ただカップの中身だけが勝負です。
その中で、エル・サポテは鮮やかに印象を残しました。
フラワリーで、ストロベリーやピーチを思わせる香りが口いっぱいに広がる。
そして、その果実感を支えるのは、端正で華やかな酸。
美しく整った輪郭があり、品があり、飲み終えた後の余韻が心地よく長く続きます。
これはただトロフィーのために作られたコーヒーではなく、農園そのものの力が結実したカップだと感じました。
その確信は日本に届いた生豆を見た時、さらに強くなります。
バキュームパックを開けた瞬間、思わずため息が漏れました。
あまりに美しい生豆だったからです。
完璧なロングベリー系の豆面。
粒の揃い方、混じりけのなさ、どこまでも端正な姿。
見れば見るほど完璧なパライネマだと思わされる。
これぞマイクロロットと叫びたくなる。
生豆そのものに迫力と説得力がありました。
コーヒーは、カップに落ちたあとだけで評価されるものではありません。
畑でどう育てられたか。
誰がどんな局面を越えてきたか。
どこまで妥協せずに選別し、乾燥し、仕上げたか。
そのすべては、最後にカップへ現れます。
そして、時には生豆の美しさにさえ現れます。
エル・サポテ農園のこのロットは、まさにそういうコーヒーです。
夫が国外へ出ることになり、そこからマルタさんが一人で背負い始めた農園。
知識も設備もないところから始まり、チェリー売りを経て、精製を学び、環境に向き合い、品質を磨き続け、ついには国際品評会で結果を残すまでになった農園。
その歩みがあったからこそ、この9位入賞には重みがあります。
だからカフェテナンゴは、このコーヒーをただの受賞ロットとしてではなく、
「ストーリーがあるコーヒー」として届けたいのです。
標高1515mという高地の厳しさ。
二つの入賞ロットを生み出した農園の底力。
日本に届いたときの、息をのむほど美しい生豆。
そしてカップに広がる、花のような香り、ストロベリーやピーチを思わせる果実味、上品で華やかな酸。
けれど何より味わっていただきたいのは、
この一杯の向こうにいるマルタさんのストーリーです。
エル・サポテ農園 パライネマ ナチュラル精製。
これは、ホンジュラスの山奥で育ったコーヒーであると同時に、一人の女性が農園を国際レベルへ引き上げた物語そのものでもあります。
ぜひ味わってみてください。
飲み終えたあと、ただ「おいしかった」では終わらないはずです。
その一杯はきっと、マルタさんの努力と強さまで静かに伝えてくれると思います。



















