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2025.07.08 コーヒーの読み物

ブラックムーンという精製方法について

ブラックムーンという精製方法について

新月の夜に生まれた新しい精製方法「Black Moon」──コスタリカSUMAVAの挑戦

コスタリカのスペシャルティコーヒーの世界で、今、静かに注目を集めている新しい精製方法があります。その名も「Black Moon(ブラックムーン)」。名づけ親は、スペシャルティコーヒーのエクスポーター「Exclusive Coffees」のヘッドカッパー、ワイネル氏。彼がこのプロセスを着想したのは、ちょうど新月の夜だったといいます。

「ブラックムーン」とは何か?

ブラックムーンとは、『新月』のこと──それは、地球から月が見えない夜。月が太陽と同じ方向にあり、地球からはその姿を確認できません。この状態は、月の満ち欠けのサイクルの始まり、「月齢0」とも呼ばれています。
古代から新月は“新しい始まり”や“再生”の象徴とされ、祈りや願いごと、心身のリセットに適したタイミングと信じられてきました。

そんな神秘的な夜に生まれたこの精製方法は、まさに“新しい始まり”にふさわしい挑戦。最初に導入されたのは、ウエストバレーの名門マイクロミル「SUMAVA(スマバ)」です。

Black Moon精製の具体的なプロセス

では、その革新的な精製とはどのような手順なのでしょうか?

1,完熟チェリーを収穫後、1週間、涼しい場所で温度管理しながら寝かせる(レポサード)
2,アフリカンベッドにて、さらに1週間天日乾燥(ナチュラル精製のようにチェリーごと乾燥)
3,その後、水を張ったタンクにチェリーを入れ、乾いた果皮・果肉をふやかす
4,柔らかくなった果実を果肉除去機にかけて、パーチメント(内殻付き豆)を取り出す
5,取り出したパーチメントをタンクに入れ、発酵させる
6,発酵後、デスムシラヒナドーラという機械でミューシレージを除去
7,最後に乾燥を行い、精製完了

このプロセスは、伝統的なウォッシュドやハニー精製とは一線を画す複雑なステップを持ち、まさに「実験的」ともいえる構成です。

すでにCup of Excellenceでも高評価

このBlack Moon精製によって精製されたカツーラ種が、2025年のコスタリカ Cup of Excellence「トラディショナル・ハニー&ナチュラル部門」に出品され、第4位という高評価を受けました。

しかし、個人的にはこのプロセスは「トラディショナル」ではなく、「エクスペリメンタル部門」で扱われるべきなのでは?という疑問もあります。それほどまでに、独自の工夫と再構築がなされた精製法なのです。

SUMAVAから広がる新しい波

現在、このBlack Moon精製は、SUMAVAでの実験を通じて技術的に進歩しつつあり、徐々に他の生産者にも伝えられ始めています。今後、コスタリカ国内でこの手法がどのように広がっていくか、注目です。

ちなみに、SUMAVA以外のミルで同様の方法を用いて作られたロットは「Black Washed(ブラックウォッシュト)」と呼ばれることもあります。呼び方が異なるだけで、本質的には同じ精製方法を指しています。

ブラックムーンは、新時代のはじまりなのか?

Black Moon精製は、新しいとはいえ伝統的なナチュラルとウォッシュトを組み合わせた精製方法です。伝統に根差しながらも、それを再構築し、新しい味わいの地平を切り開いていく──そんな熱意と探究心が、この精製には込められています。

次にあなたが手にするコスタリカのカップには、もしかしたら新月の夜に生まれた“新しい光”が、そっと宿っているかもしれません。

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