2025.07.14 コーヒーの読み物
グアテマラ カップオブエクセレンス 2025 全ロットカッピング

グアテマラの頂点で僕らはまた出会った ~ RosmaとEl InjertoW受賞に寄せて
2025年のグアテマラ カップ・オブ・エクセレンス(COE)入賞ロットのカッピングに参加しました。
毎年楽しみにしているこのイベント。今年は、いつにも増して胸が高鳴る体験となりました。
例年より少なかった出品数とその背景
今年のエントリー数は186サンプル。
例年に比べて少ない数です。背景には、世界的にコーヒーの相場が高止まりしていることがありました。
「オークションを待たず、すぐに現金化したい」と考える生産者たちは、市場に売り出してしまったのだと思われます。
しかし、数が少ないからといって、質まで下がっていたわけではありません。
むしろ選び抜かれた少数精鋭。その言葉がふさわしいカッピング体験でした。
審査プロセスと部門構成
186のサンプルは、プレ審査で79ロットに絞られ、国内審査会で40ロットが国際審査に進みました。
国際審査員によって最終的に30ロットがCOE入賞として選出。
今年のグアテマラCOEでは、3つの部門が設定されました.
1, EXOTIC Washed(ゲイシャ・パカマラ・マラゴジペ・ケニア系 × ウォッシュト精製)
2, EXOTIC Natural & Honey(上記品種 × ナチュラルまたはハニー精製)
3, One of a Kind(その他の品種。精製方法は問わず。エクスペリメンタルも含む)
明確なカテゴリー分けによって、多様な品種が適切に評価されやすくなったことは、大きな進歩だと感じましたが、One of a Kindは、『唯一無二』という意味ですが、カテゴリ内容を見てしまうと十把一絡げな印象を受けてしまうのは私だけでしょうか?
■ EXOTIC Washed部門:ロズマファミリーが悲願の1位獲得
この部門の頂点に立ったのは、La Gran Manzana(ゲイシャFW)。
なんと、私たちカフェテナンゴと長年パートナーシップを築いてきた、ロズマファミリーの農園です。
La Gran Manzanaは、直訳すれば『大きなリンゴ』。英語にすると「The Big Apple」(ニューヨークの愛称)ということでLa Gran Manzanaは、ニューヨークという意味です。
その名の通り、華やかで洗練されたこのロットは、ゲイシャらしいフローラルさと柑橘の明るい酸、新鮮な赤リンゴのように爽やかでみずみずしく、そして圧倒的な透明感が見事に調和していました。
これはロズマファミリーにとって悲願の1位。
その喜びは、まるで自分のことのように感じられました。
2位にはEl Morito(ゲイシャFW)がランクイン。やっぱり強い。この位置にいても誰も驚かない納得の順位でしょう。
ラウンドマウスフィールにピーチやスイカを思わせる甘い果実味があり、今回のカッピングの中でも特に個性的な香味を放っていました。
3位はEl Socorro(ゲイシャFW)。COEで上位入賞常連。言わずと知れたパレンシアの名門です。
5位にはEl Injerto(ゲイシャFW)、6位にはRosma農園(ゲイシャFW)のロットが続き、
8位までがすべてゲイシャという圧巻の展開。この部門で、ロズマファミリーは、1位と6位を獲得し圧倒的な強さを見せました。
このカテゴリで、9位にランクインしたPlan de La Vega(マラゴジペFW)は異色の存在でした。
ミルクチョコレートのような滑らかな甘さと、小さな赤い果実の甘酸っぱさが融合して大粒品種の個性をきちんと表現できている稀有なコーヒー。個人的に、強く心を惹かれたロットでした。
■ EXOTIC Natural & Honey部門:大粒品種の健闘
この部門の1位は、Las Macadamias(ゲイシャ ナチュラル)。
実はこれ、エル・インヘルト農園のロット。名義が違うだけです。以前は、Las Macadamiasといえばブルボン種で出品されていましたが、近年はゲイシャなんですね。
土地のポテンシャルが高いので、品種にかかわらず風味は超一流です。
赤リンゴやイチゴの甘くフレッシュな香味に、華やかなゲイシャが美しく溶け込み、バランスも素晴らしいものでした。
注目は後半のロットたち。
特に印象的だったのが、
6位:La Florida(パカマラ ナチュラル)
10位:La Bolsa(パカマラ ナチュラル)
どちらも、メロンやピーチのようなジューシーな果実感に、チョコレートやキャラメルの深い甘さが絡み合い、
大粒品種らしい丸みとナチュラルプロセスの個性が絶妙なバランスで融合していました。パカマラ好きにはたまらないロットです。
それにしてもエル・インヘルトは、何度目の1位なのでしょうか?噂によるとAnacafeは、エル・インヘルトにはもう出品してほしくないとか・・・。(勝ってしまうから)個人的には、インヘルトにはパカマラで勝って欲しいのですが、プライベートオークションに回しているのでしょうか?それともゲイシャが勝ってしまうのか?どちらなのでしょう。
■ One of a Kind部門:ゲイシャ以外が光り輝く懐かしいワクワク感
正直なところ、「One of a Kind」(『唯一無二』部門)ということでかっこいい名前を付けていますが、ゲイシャ以外は“その他扱い”にされているように感じました。『ゲイシャ以外は、ウォッシュトもナチュラルもアナエロも同じ土俵で戦えや』ということですからね。
しかし、そんな違和感はサンプルを口にした瞬間にどこかに消え去りました。
どれもとんでもなく素晴らしかった。特に心に残ったロットは以下の3つ。
1位:El Nazareno(ブルボン&カツーラ/ナチュラル)
チョコレート、ブラックベリー、イチゴ、バナナ…。暴力的なまでに甘く、重厚なマウスフィールとシトリックな酸が全体を引き締めている。非常に完成度の高いロットでした。
4位:El Vergel(ブルボン・カツアイ・アナカフェ14/ナチュラル)
熟したミカン、カシス、アプリコットといった果実味があふれ、グアテマラらしい深みと華やかさを併せ持つ逸品。アナカフェ14が入った混合ロットという点も興味深い。
7位:Granja El Tempixque(カツアイ/ウォッシュト)
透明感、クリーミーな質感、フルーツとスパイスのバランス…。アンティグア地区のポテンシャルを感じさせるロットでした。
サンプルからサンプルへ、カッピングスプーンが移るたびに驚きと喜びを与えてくれる「これこそスペシャルティコーヒーの楽しさだ」と思わせてくれるカテゴリでした。
■ ロズマとエル・インヘルト、W受賞の意味
今回特筆すべきは、ウォッシュト部門を制したロズマ、そしてナチュラル部門を制したエル・インヘルト。
この2農園は、カフェテナンゴが長年パートナーシップを結んできた、大切な“仲間”たちです。
その両方が、それぞれの部門で1位を獲ったという事実は、私にとって大きな誇りであり、カフェテナンゴの選球眼の確かさを証明する結果でもありました。
以前から「日本のロースターの中で、グアテマラコーヒーに関しては一番良い豆を扱っている」という自負がありましたが、
それが今年のCOEで現実として証明された。そんな気持ちでいっぱいです。
授賞式のあと、ロズマのアレハンドロからメッセンジャーで写真が送られてきました。
そこには、悲願のCOE1位トロフィーを手にした彼と家族の笑顔が。
それを見た瞬間、私は胸が熱くなり、まるで自分のことのように誇らしく感じました。
ちなみにカフェテナンゴは、エル・インヘルトとロズマだけでも常時8ロットを扱っています。
■ まとめ:多様性の中にこそ、未来の一杯がある
2025年のグアテマラCOEは、ゲイシャ一強の流れを維持しつつも、パカマラやマラゴジペの評価もきちんと確立されていることを実感させてくれました。
そして部門の明確な分離によって、ゲイシャ以外の優れたロットにもスポットライトが当たる(1位が獲れる)ようになったのは、とても良いことです。
そして何より、今年のカッピングは改めて私にこう教えてくれました。
スペシャルティコーヒーの本質は、「主流」にあるのではなく、「多様性」の中にこそ本当の輝きがある。
グアテマラはやっぱり奥深い。そして、面白い。