2026.08.21 ショップ&イベント
定員4名の教室から全国のコーヒー店へ
カフェテナンゴの定期コーヒーセミナーを終えるにあたって
「ここはスペシャルティコーヒーのお店ではないですね」
ある日、深沢店を訪れたお客様からそう言われました。
「いえ、カフェテナンゴは、中米産スペシャルティコーヒーの専門店です」
そう答えると、お客様は少し不思議そうな顔をして、こう続けました。
「でも、ここはフレンチプレスで淹れていませんよね。スペシャルティコーヒーは、フレンチプレスで楽しむものでしょう?」
なぜそう思ったのかを尋ねると、あるスペシャルティコーヒー店で、そのように説明されたというのです。
私は、まずいと思いました。
もちろん、フレンチプレスはコーヒーの個性を楽しめる優れた抽出器具です。しかし、スペシャルティコーヒーかどうかは、抽出器具によって決まるものではありません。
このまま誤った情報が広がっていけば、ペーパードリップで提供しているカフェテナンゴは、「ニセモノ」だと思われてしまうかもしれない。
それ以上に、せっかく日本に広がり始めたスペシャルティコーヒーが、限られた抽出方法や誰かの決めた形式だけで語られてしまうことに、強い危機感を覚えました。
「正しいことをきちんと発信しなければならない」
それが、カフェテナンゴでセミナーを始めたきっかけでした。
正確には覚えていませんがセミナーがスタートしたのは2011~2012年くらいだったと思います。スペシャルティコーヒーという言葉は、まだ一般的ではなく、インターネットで検索しても、現在のように詳しい情報は出てきませんでした。生産地の状況や品種、精製方法、品質評価について、信頼できる情報を日本語で得られる場所は、まだ限られていました。
そこでカフェテナンゴ深沢店のカウンターで、定員4名の小さなセミナーを始めました。
大勢を集める講演ではありません。少人数でコーヒーを淹れたり、飲み比べをしながら、私が現地や仕事を通じて得た生の情報を伝え、参加者からの質問に一つずつ答えていくセミナーでした。
セミナーに通ってくれた受講生たちの中には、現在自分のお店を持っている方が多くいます。北は北海道から南は沖縄まで、全国各地に卒業生が営むコーヒー屋が存在するというのは、始めた時には予想もしなかったことです。
あの時、カフェテナンゴの店内で交わした話が、それぞれの土地へ運ばれ、新しい店や一杯のコーヒーにつながっていったことは、私にとって大きな喜びです。
しかし、コーヒーを取り巻く環境は大きく変わりました。
今ではSNSや動画コンテンツを通じて、世界中の生産者やロースターが直接情報を発信しています。品種や精製方法、抽出、焙煎についても、以前とは比べものにならないほど多くの情報に触れられるようになりました。
もちろん、インターネット上の情報がすべて正しいわけではありません。それでも、一つの情報だけを信じるのではなく、さまざまな考え方を知り、自分で比較し、確かめられる環境が整ってきたことは間違いありません。
その変化のなかで、私は少しずつ、カフェテナンゴの定期セミナーは役割を果たしたのではないかと感じるようになりました。
そして、もう一つ。
私自身が50歳を越え、店や焙煎の仕事と並行しながら、月に何度もセミナーを続けることが、体力的に少しずつ厳しくなってきたこともあります。
これまで続けてきたものを終える決断は、なかなか難しいものです。
けれど、必要とされる情報を届けるために始めたセミナーだからこそ、その役割が変わったと感じたときに、一度区切りをつけることも大切だと思いました。
カフェテナンゴの定期セミナーは、2027年4月をもって終了します。
ただし、コーヒーについて伝えることそのものをやめるわけではありません。
これからは、伝えるべきテーマや新しい発見が生まれたときに、必要に応じて不定期のセミナーを開催していく予定です。定期開催ではなくなるからこそ、そのときに本当にお話ししたいことを、より深くお伝えできる場にしたいと考えています。
あの日、お客様から投げかけられた一言から始まった定員4名の小さなセミナー。
そこから巣立った人たちが、今では全国各地でコーヒーを淹れ、それぞれの言葉でお客様に伝えています。
そう考えると、セミナーはなくなるのではなく、すでにいくつもの店と無数の一杯のなかへ広がっているのかもしれません。
これまで参加してくださった皆様、本当にありがとうございました。
まだ2027年4月までは時間がありますので、セミナーを受講してみたい方は、店頭、Webからお申込みください。
尚、今後のコーヒーセミナーについては、メルマガやSNSを通じて引き続き発信していく予定です。




















