2026.09.11 生産者特集
エルサルバドル・チャラテナンゴのサン・ニコラス農園|現地で選んだパカマラ・ハニー
2026年3月、エルサルバドル。
Cafe Cateのカッピングテーブルには、エルサルバドル各地から集められたコーヒーが並んでいました。
香りを確かめ、スプーンで口に運び、温度が下がってからもう一度味を見る。
その中で、私が「日本へ持って帰りたい」と思ったコーヒーのひとつが、チャラテナンゴのサン・ニコラス農園でつくられたパカマラ・ハニーでした。
しかし、このコーヒーを選んだ理由は、味だけではありません。
テーブルの向こうにいたCafe Cateのロドリゴは、かつて私がエルサルバドルでコーヒーを学んでいた頃の先生。
そして、今回のパカマラをつくったグティエレス家は、ロドリゴが長年にわたって信頼関係を築いてきた生産者でした。
私がエルサルバドルで初めて知った「パカマラ」という品種。
先生だったロドリゴ。
そして、その先にいたサン・ニコラス農園の生産者。
長い時間を経て、それぞれの線がひとつにつながったコーヒーです。
エルサルバドルで初めて知った「パカマラ」
私がパカマラという品種を初めて知ったのも、エルサルバドルでコーヒーを学んでいた頃でした。
ひときわ大きなコーヒー豆。
そして、その見た目以上に印象に残る、香りと味わいの存在感。
当時飲んだものは、今回のグティエレス家のパカマラではありません。
それでも「Pacamara」という名前は、私の記憶に強く残りました。
その頃、私にコーヒーを教えてくれたのがCafe Cateのロドリゴです。
あれから長い年月が経ち、今度はそのロドリゴのカッピングテーブルで、自分がお客様へ届けるパカマラを選ぶことになりました。
当時の自分には想像もできなかったことです。
パカマラとは? エルサルバドルで生まれたコーヒー品種
パカマラは、エルサルバドルで生まれたコーヒー品種です。
1958年、エルサルバドルのコーヒー研究機関で、パカスとレッド・マラゴジペを交配する育種が始まりました。
パカスは、エルサルバドルで発見されたブルボン系の自然突然変異。
一方のマラゴジペはティピカ系の自然突然変異で、大きな樹と非常に大きな種子を持つことで知られています。
二つの名前を受け継ぎ、「パカマラ」と名付けられました。
パカマラというと、まずその大きな豆に目が行きます。
しかし、本当の面白さは大きさではありません。
うまく育てられたパカマラには、華やかな香り、豊かな果実感、立体的な質感、長い余韻が現れることがあります。
一方で、品種名だけで品質が決まるわけでもありません。
どこで育てるのか。
どの樹を選ぶのか。
どのタイミングで収穫するのか。
そして、どのように精製し、乾燥させるのか。
パカマラは、生産者の仕事がカップに表れやすい品種のひとつだと私は感じています。
だからこそ、パカマラを見るときは、品種名だけではなく、その背景まで知りたくなります。
パカマラの産地として知られるチャラテナンゴ
サン・ニコラス農園があるのは、エルサルバドル北部のチャラテナンゴ。
ホンジュラスとの国境に近い山岳地域です。
現在では、エルサルバドルを代表する高品質コーヒー産地のひとつとして知られています。
その評価を世界へ広げるうえで、大きな役割を果たした品種のひとつがパカマラでした。
高い標高。
冷涼な気候。
昼夜の寒暖差。
そして、生産者自身の目が届く比較的小さな農園。
チャラテナンゴでは、こうした環境の中で生産者たちがパカマラを育て、その品質を磨いてきました。
2000年代に入ると、チャラテナンゴ産のパカマラがCup of Excellence(COE)で次々と高い評価を受けるようになります。
それまでエルサルバドルの伝統的なコーヒー産地として知られていた西部とは別に、北部の山岳地帯から、小規模な生産者たちの名前が世界へ知られるようになっていきました。
品種だけでは、この味にはならない。
パカマラとチャラテナンゴを知れば知るほど、そう思います。
サン・ニコラス農園とグティエレス家
サン・ニコラス農園の物語は、もともと牛の放牧に使われていた土地から始まります。
2005年、グティエレス家はそこにパカマラを植え始めました。
翌年には別の区画へ広げ、将来的には5エーカーを100%パカマラにすることを目指していたといいます。
グティエレス家にとって大きな転機となったのが、2011年。
父イグナシオ・グティエレスが、別の農園ラ・ロクサニータのパカマラでエルサルバドルCOE第1位、93.19点を獲得します。
その結果を見て、息子エドガルドはパカマラという品種の可能性をさらに確信しました。
そして2年後の2013年。
エドガルドは自らのサン・ニコラス農園から、2つのパカマラロットをCOEへ出品します。
結果は、1位と17位。
優勝ロットは90.37点。
オークションでは1ポンド50.10ドル、総額90,180ドルで、日本のUCC上島珈琲が落札しました。
現地資料では、このときサン・ニコラス農園はハニーとウォッシュトという異なる精製のパカマラを出品し、ハニーが1位、ウォッシュトが17位だったと伝えられています。
さらに2015年には、父イグナシオが別の農園ポシトス・デ・サン・イグナシオで再びCOE第1位を獲得しました。
親子が異なる農園でパカマラを育て、その可能性を確かめ続けてきた歴史があります。
ただし、ここで一つ大切なことがあります。
私が伝えたいのは、「昔、賞を取った農園だからすごい」ということだけではありません。
その歴史を持つ生産者が、今もパカマラを育て続けている。
そして私は、2026年の現地で、その現在のカップを飲んで選びました。
そこに、このコーヒーの価値があると思っています。
Cafe Cateのロドリゴとグティエレス家
今回、サン・ニコラス農園を調べる中で、もうひとつ知ることができました。
Cafe Cateのロドリゴと、グティエレス家との深い関係です。
ロドリゴは、そう話してくれました。
単なる「コーヒーを買う人」と「生産者」という関係ではありません。
グティエレス家は、ラ・パルマにあるロドリゴの農園の管理にも関わっています。
エドガルドとは一つの農園を共同所有し、ナチョは別の小さな農園を管理しています。
一方で、グティエレス家は自分たちのコーヒーの販売をロドリゴに託しています。
ロドリゴは長年彼らのコーヒーを買い、販売を支え、ドライミルでの最終精製も担っています。
お互いに、自分ではできない部分を相手に預ける。
そこには、長い時間をかけて築かれた信頼関係があります。
そして、そのつながりの先にあったのが、今回のサン・ニコラス農園 パカマラ・ハニーでした。
名前ではなく、最後はカッピングで選ぶ
もちろん、
「グティエレス家だから」
「COEで優勝したことがあるから」
という理由だけで買ったわけではありません。
どれだけ生産者を知っていても、どれだけ立派なストーリーがあっても、最後に見るのはカップです。
Cafe Cateでは、複数のサンプルを同じ条件でカッピングしました。
熱いうちだけでなく、温度が下がってから何度もカップへ戻ります。
香りはどう変化するのか。
甘さは最後まで残るのか。
質感はどうか。
飲み終えたあとに、どんな余韻が残るのか。
その中で選んだのが、サン・ニコラス農園のパカマラ・ハニーでした。
最後は、カップに訊く。
私がコーヒーを買い付けるときに、大切にしていることです。
パカマラ・ハニーを、カフェテナンゴで焙煎する
産地でコーヒーを選べば、そこで仕事が終わるわけではありません。
今度は、そのコーヒーを日本でどう焙煎するか。
ここからがロースターの仕事です。
大粒のパカマラにどのように熱を入れるのか。
ハニー精製による甘さや質感を、どう一杯の中へ残すのか。
今回意識しているのは、三つの個性です。
サン・ニコラス農園の栽培と精製
カフェテナンゴの焙煎
どれか一つだけを強調するのではなく、それぞれが自然につながる場所を探します。
パカマラらしい派手さだけを追うのではなく、サン・ニコラスの甘さ、質感、余韻が自然につながる焙煎を目指しています。
生産者がつくった個性を、焙煎で塗り替えないこと。
それが、私たちがこのコーヒーを焙煎するときに大切にしていることです。
グティエレス家からロドリゴへ。そして日本へ
エルサルバドルのコーヒー学校で、私はロドリゴからコーヒーを学びました。
その頃に知った品種のひとつが、パカマラでした。
それから年月が経ち、今度はそのロドリゴのカッピングテーブルで、自分が日本へ届けるパカマラを選びました。
そして、その豆を育てていたのは、ロドリゴが自分の農園を任せるほど信頼するグティエレス家でした。
ロドリゴから私へ。
そして、カフェテナンゴから皆さんのカップへ。
人から人へ託されてきた一粒です。
このコーヒーを飲むときは、ぜひ熱いうちだけで飲み終えず、少し時間をかけてみてください。
最初に立ち上がる香り。
温度が落ち着くにつれて感じられる甘さと質感。
そして、冷めてから現れる透明感と長い余韻。
温度の変化とともに、一杯の表情も変わっていきます。
チャラテナンゴ
サン・ニコラス農園
パカマラ・ハニー
2026年、私が現地で選んだコーヒーです。
MORE ABOUT SAN NICOLÁS
パカマラという品種の誕生、チャラテナンゴのテロワール、グティエレス家の歩み、そしてCafe Cateとのつながりを、特設ページでさらに詳しく紹介しています。
TASTE THE PACAMARA
エルサルバドルで生まれたパカマラと、グティエレス家が磨いてきたコーヒー。店主が現地でカッピングして選んだ一杯をお楽しみください。



















